バルトリン腺炎

バルトリン腺炎と漢方

バルトリン腺炎とは?

バルトリン腺炎とは、女性の外陰部にあるバルトリン腺という分泌腺が細菌などに感染して炎症を起こすことです。バルトリン腺は性交時に膣を潤す粘液を分泌する重要な役割を持っていますが、感染や詰まりによって腫れたり、膿が溜まったりすることがあります。

バルトリン腺炎の原因は?

バルトリン腺炎の原因となる細菌は様々ですが、主に以下のようなものが挙げられます。

- 陰部に常在するブドウ球菌や連鎖球菌、大腸菌など
- 酸素を嫌う嫌気性菌
- 性感染症の原因となるクラミジアや淋菌

これらの細菌は、性交渉や不衛生な生活習慣などによってバルトリン腺の排泄管から侵入し、感染を引き起こします。感染が進むと排泄管が詰まり、バルトリン腺内に分泌物が溜まって嚢胞(のうほう)と呼ばれる袋状のものができます。さらに嚢胞にも感染が及び、膿(うみ)が貯まったものをバルトリン腺膿瘍(ばるとりんせんのうよう)と呼びます。

バルトリン腺炎の症状は?

バルトリン腺炎の多くは片側だけに発生します。初期段階ではバルトリン腺の排泄管の開口部周囲に赤みや熱感、腫れが現れます。この時点ではあまり痛みはありませんが、感染が進行してバルトリン腺膿瘍ができると強い痛みや圧迫感を伴います。また、外陰部から白っぽいか黄色っぽい粘液や膿性の分泌物が出ることもあります。バルトリン腺膿瘍はエンドウ豆から卵ほどの大きさになることもあり、その場合は歩行や座位、性交渉などが困難になることもあります。

一方でバルトリン腺嚢胞は通常無症候性であり、違和感や圧迫感程度で済むことが多いです。しかし嚢胞自体は消えずに残っており、再度感染してバルトリン腺炎やバルトリン腺膿瘍を引き起こす可能性があります。

バルトリン腺炎の診断方法は?

バルトリン腺炎の診断は主に視診(しせん)と触診(しょくしん)で行われます。視診では外陰部の赤みや分泌物の有無を確認し、触診では外陰部の触診器具(スペキュラム)を使ってバルトリン腺の位置や大きさ、硬さ、可動性(かどうせい)、圧痛(あつつう)などを調べます。

また原因となる細菌を特定するために分泌物や嚢胞内容液から細菌培養検査(さいきんばいようけんさ)を行います。これは分泌物や嚢胞内容液を採取して培地(ばいち)に塗布し、培養器具で一定時間温めて増殖させた後に顕微鏡で観察する検査です。この検査では淋菌やクラミジアなどの性感染症も同時に検査することができます。

補助的な検査としてMRI(エムアールアイ)などの画像検査も行われる場合があります。これは嚢胞や膿瘍の大きさや位置を正確に把握したり、他の原因となる良性(りょうせい)や悪性(あくせい)の腫瘍(しゅよう)を除外したりするためです。良性の腫瘍としては 線 維 腫 (せんいしゅ) や 脂肪 腫 (しぼうしゅ) がありますし、非常にまれですが バル ト リ ン 腺 が ん (ばるとりんせんがん) など の 悪 性 腫 瘍 (あくせいしゅよう) も知られています。その場合は細胞診(さいぼうしん)や組 織 診 断 (そしきしだん) など の 病 理 検 査 (びょうりけんさ) を行います。

バルトリン腺炎の治療法は?

バルトリン腺炎の治療法は以下のように分類されます。

- 薬物治療
- 切開排液・排膿
- 造袋術
- バルトリン腺摘出術

薬物治療

バルトリン腺炎の初期や症状が軽度の場合は抗菌薬の内服を行います。原因となる細菌に対して効果がある抗菌薬を選択します。例えば、淋菌やクラミジアが原因の場合は、レボフロキサシンやアジスロマイシンなどの合成抗菌剤を使用します。ブドウ球菌や大腸菌などが原因の場合は、セフカペンやセフジトレンなどのセフェム系抗生物質を使用します。抗菌薬は通常、1日1回500mgを1週間程度服用しますが、症状や感染状況によって変わることがあります。医師の指示に従って服用してください。

切開排液・排膿

バルトリン腺嚢胞やバルトリン腺膿瘍ができている場合は、切開排液・排膿という手技を行います。これは、局所麻酔の下で外陰部に小さな切開を入れて嚢胞や膿瘍の中身を出すことです。切開後はガーゼなどで傷口を保護し、感染予防のために抗菌薬を内服します。切開排液・排膿は通常、外来で行われますが、場合によっては入院が必要になることもあります。

造袋術

バルトリン腺嚢胞やバルトリン腺膿瘍が再発しやすい場合は、造袋術という手術を行うことがあります。これは、全身麻酔または局所麻酔の下で外陰部に切開を入れて嚢胞や膿瘍を切除し、そのまま傷口を開けたままにして袋状にすることです。これにより、バルトリン腺から分泌される液体が自然に排出されるようになります。造袋術は通常、入院して行われます。

バルトリン腺摘出術

バルトリン腺嚢胞やバルトリン腺膿瘍が非常に大きくなったり、バルトリン腺がんの疑いがあったりする場合は、バルトリン腺摘出術という手術を行うことがあります。これは、全身麻酔または局所麻酔の下で外陰部に切開を入れてバルトリン腺そのものを摘出することです。この手術では、バルトリン腺から分泌される液体が失われるため、性交時に乾燥しやすくなる可能性があります。バルトリン腺摘出術は通常、入院して行われます。

バルトリン腺炎の養生法は?

バルトリン腺炎の治療中や治癒後は以下のような養生法を心がけましょう。

- 外陰部を清潔に保つ
- 綿製の下着やゆったりした服装を着用する
- 湯船につかるのではなくシャワーで洗う
- 性交渉や自慰行為を控える
- 痛みや発熱がある場合は解熱鎮痛剤を服用する
- 傷口が化膿したり出血したりする場合は医師に相談する

バルトリン腺炎と漢方

バルトリン腺炎の役に立つ話は?

バルトリン腺炎は女性特有の病気であり、恥ずかしくて人に相談しにくいかもしれません。しかし放置すると重篤な合併症を引き起こす可能性もあります。例えば、

  • 膿瘍が広がって敗血症(はいけつしょう)や敗血性ショック(はいけつせいショック)という全身感染症になる
  • 膣周囲組織(ちつしゅういそしき)や子宮(しきゅう)・卵巣(らんそう)・卵管(らんかん)などに感染が広がって不妊(ふにん)や子宮外妊娠(しきゅうがいにんしん)などの婦人科系感染症(ふじんかけいかんせんしょう)になる
  • バルトリン腺がんと間違えられて診断・治療が遅れる

などです。そのため、外陰部に異常を感じたら早めに産婦人科を受診することが大切です。また予防策として、

- 安全性交渉(あんぜんせいこうしょう)を実践する
- 外陰部を清潔に保つ
- 生理中や性交渉後はタンポンやナプキンをこまめに取り替える
- 乳酸菌(にゅうさんきん)製剤などで自然な酸性度(さんせいど)を保つ

なども効果的です。バルトリン腺炎は女性の健康と快楽に関わる重要な問題です。正しい知識と適切な治療で早期回復を目指しましょう。

漢方療法の併用

西洋医学では、抗生物質や消炎鎮痛剤などの薬物治療や、切開排液・排膿などの手技治療が行われますが、これらはあくまで対処療法であり、根本的な原因を取り除くことはできません。そのため、漢方治療を併用することで、より効果的にバルトリン腺炎を改善することができます。

漢方治療では、バルトリン腺炎の原因や体質に合わせて、適切な漢方薬を処方します。漢方薬は、自然界にある植物や動物・鉱物などの生薬を組み合わせたもので、副作用が少なく安全です。また、漢方薬は、一つ一つの生薬が相互に作用して効果を高めることが特徴です。漢方治療の目的は、以下のようなものです。

- 炎症や腫れを抑える
- 膿や粘液を排出する
- 細菌感染を防ぐ
- 免疫力や体力を高める
- 再発を予防する

バルトリン腺炎の場合、漢方では「湿熱下注」という証(しょう)というものに当てはまります。「湿」とは水分のことで、「熱」とは熱気のことです。「湿」が多くなると、「気」や「血」の流れが滞り、「湿」が「熱」を生み出します。「湿」と「熱」が下半身に溜まると、「湿熱下注」という証になります。この証では、以下のような症状が現れます。

- 外陰部の赤みや腫れ
- 灼熱感や激しい痛み
- 膿や粘液の分泌
- 発熱や倦怠感

このような場合には、「清熱解毒」という作用のある漢方薬を用います。「清」とは清めることで、「解」とは解くことで、「毒」とは有害なものです。「清熱解毒」という作用は、「湿」や「熱」を清めて解きほぐし、「毒」を排出することです。具体的には、以下のような漢方薬があります。

  • 瀉火利湿顆粒(しゃかりすいかんりゅう):「黄連」「黄柏」「大黄」「茵陳」「木通」「甘草」などからなる漢方薬で、「湿」や「火」を利尿作用で排出する効果があります。
  • 涼解楽(りょうかいらく):「黄芩」「黄連」「甘草」「桔梗」「芍薬」などからなる漢方薬で、「火」や「毒」を清めて解く効果があります。
  • 五味消毒飲(ごみしょうどくいん):「黄連」「黄柏」「大黄」「甘草」「桔梗」などからなる漢方薬で、「熱」や「毒」を清めて消す効果があります。
  • 白花蛇舌草(びゃっかじゃぜつそう):「白花蛇舌草」という生薬からなる漢方薬で、「熱」や「毒」を清めて排出する効果があります。

これらの漢方薬は、体質や証に合わせて選択したり、組み合わせたりします。

また、「湿」と「熱」を排出した後は、「気」と「血」の流れを良くして免疫力や体力を高める必要があります。そのためには、「補気剤」という作用のある漢方薬を用います。「補」とは補うことで、「気」とは生命力のことです。「補気剤」という作用は、「気」を補って免疫力や体力を高めることです。具体的には以下のような漢方薬があります。

代表的な漢方薬:健胃顆粒

  • 健胃顆粒(けんいかりゅう):「党参」「白朮」「茯苓」「甘草」「半夏」「陳皮」などからなる漢方薬で、「気」を補って胃腸機能を改善する効果があります。

漢方薬の服用をご希望される場合、その方の体質によって種類が異なることがありますので薬局でご相談ください。

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