不眠

不眠と漢方

不眠の原因と対策

不眠とは、眠りたいと思っても眠れない状態や、眠りが浅くて十分な睡眠が得られない状態のことです。不眠は、日中の活動や健康に悪影響を及ぼすだけでなく、うつ病や心臓病などのリスクも高めます。不眠にはさまざまな原因がありますが、ストレスや生活習慣の乱れが大きな要因です。不眠を改善するためには、自分の不眠のタイプや原因を知り、適切な対策を行うことが大切です。

不眠の症状

不眠の症状は人それぞれ異なりますが、一般的に以下のようなものがあります。

- 寝つきが悪い
- 夜中に何度も目が覚める
- 早朝に目が覚めて二度寝できない
- 眠りが浅くて夢をよく見る
- 睡眠時間が短い
- 日中に眠気や倦怠感がある
- 集中力や記憶力が低下する
- イライラや不安感が強くなる
- 食欲や性欲が減退する

不眠の診断

不眠は一時的なものであれば問題ありませんが、3か月以上続く場合は不眠症と診断されます。不眠症は以下のように分類されます。

- 原発性不眠症:身体的・精神的な疾患や外的要因とは無関係に起こる不眠
- 続発性不眠症:身体的・精神的な疾患や外的要因によって起こる不眠

不眠の診断は、主に以下の方法で行われます。

- 問診:睡眠習慣や生活環境、ストレスや心配事などを聞きます。
- 睡眠日誌:寝床に入った時間や起床した時間、睡眠時間や睡眠効率などを記録します。
- 睡眠ポリグラフ検査:脳波や呼吸、心拍数などを測定して睡眠の質や深さを調べます。

不眠の治療法

不眠の治療法は、原因やタイプによって異なりますが、一般的に以下のようなものがあります。

- 薬物療法:睡眠薬や抗うつ薬などを使用します。効果的に使用するためには医師の指示に従い、副作用や依存性に注意する必要があります。
- 認知行動療法:不適切な睡眠習慣や思い込みを改善し、自然な睡眠リズムを取り戻す方法です。リラクゼーション技法や刺激制御法などがあります。
- 光療法:朝日を浴びることで体内時計を整える方法です。寝つきが悪い人は朝日を浴びることで夜に睡魔を感じやすくなります。

眠のタイプ別におすすめの方法を紹介

不眠の漢方療法とは?

漢方療法とは?

漢方療法とは、自分の体質や症状に合わせて、生薬と呼ばれる植物や動物・鉱物などから作られた漢方薬を服用することで、体のバランスを回復させる方法です。漢方療法は、気・血・津液の3つの要素で構成される人間の体と、陰・陽・五行という理論で説明される自然界の法則に基づいています。気・血・津液が陰・陽・五行のバランスで正常に流れることで、健康が保たれます。しかし、外的要因や内的要因によって気・血・津液の流れが乱れると、体に不調が現れます。漢方療法では、この気・血・津液の流れを整えることで、体の自然治癒力を高めることを目指します。

不眠のタイプ別漢方療法

不眠は一口に言っても、その原因や症状は人それぞれ異なります。そのため、自分に合った漢方療法を行うことが重要です。ここでは、不眠のタイプ別におすすめの養生法と漢方薬を紹介します。

タイプ1:ストレス過多で気が滞るタイプ

このタイプは、仕事や家庭などでストレスが溜まっていて、気持ちが落ち込んだりイライラしたりすることが多い人です。寝つきが悪かったり夢を見たりすることもあります。このタイプは、「気」が滞っている状態です。「気」は体内でエネルギーを運ぶ役割をしていますが、ストレスで「気」が滞ると精神的な不安定さや身体的な不快感を引き起こします。

おすすめの養生法

- 香りの良いもので「気」を流す
「気」は香りに反応して流れやすくなります。菊花茶やジャスミン茶など香りの良いお茶を飲んだり、しそやセロリなど香りの強い野菜を食べたりしましょう。
- 感情を発散する
ストレスで溜まった感情を抑え込むと「気」が滞ります。適度な運動や趣味などで気分転換しましょう。また、友人や家族など信頼できる人に話すことも効果的です。
- ツボを刺激する
「気」の流れを改善するツボがあります。例えば、「合谷(ごうこく)」は手首から親指側に4本指分上がったところにあるツボで、「百会(ひゃくえ)」は頭頂部にあるツボです。これらのツボを押したりマッサージしたりして刺激しましょう。

おすすめの漢方薬

- 逍遥散(しょうようさん)

  • 「気」だけでなく「血」も滞っている場合に用いられる処方です。「血」は精神活動を支える役割をしていますが、「血」が滞ると精神が休まらず不安感や動悸などが起こります。この処方は「気」と「血」の両方を流して心身のバランスを整えます。

- 柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

  • 香りの良い生薬で「気」を流し、精神安定作用のある生薬で「気」を鎮める処方です。ストレスからくる不安感やイライラ感を和らげて睡眠を促します。

タイプ2:血液不足で精神が休まらないタイプ

このタイプは、女性に多く見られるタイプで、月経や妊娠・出産などで血液が不足している人です。血液は精神活動を支える役割をしていますが、血液が不足すると精神が休まらず不安感や動悸などが起こります。このタイプは、「血」が不足している状態です。

おすすめの養生法

- 甘みのあるもので「血」を補う
「血」は甘みに反応して増えやすくなります。黒糖や百合根など甘みのある食材を摂取しましょう。また、赤ワインやナツメなど赤色の食材も「血」に良いとされています。
- 温かくして冷えを防ぐ
「血」は温かさに反応して流れやすくなります。「血」が冷えると固まって滞ってしまいます。温かいお風呂に入ったり温かい飲み物を飲んだりして体温を上げましょう。
- ツボを刺激する
「血」の流れを改善するツボがあります。例えば、「太沖(たいおく)」は足首から親指側に4本指分上がったところにあるツボで、「三陰交(さんいんこう)」は足首から内側に4本指分上がったところにあるツボです。これらのツボを押したりマッサージしたりして刺激しましょう。

おすすめの漢方薬

- 神脾顆粒(しんぴかりゅう)

  • 「血」を補うだけでなく、「気」も補う処方です。「気」と「血」は密接に関係しており、「気」が不足すると「血」も生成されにくくなります。この処方は「気」と「血」の両方を補って精神安定作用を発揮します。

- 婦宝当帰膠(ふほうとうきこう)

  • 「血」だけでなく「陰」も不足している場合に用いられる処方です。「陰」とは冷たくて静かなもの、「陽」とは暑くて動くものを表します。「陰」が不足すると「陽」が相対的に過剰になり、「火」と呼ばれる熱や興奮が生じます。この処方は「陰」と「血」の両方を補って「火」を鎮めます。

タイプ3:更年期で火照って眠れないタイプ

このタイプは、女性だけでなく男性も含めて更年期に見られるタイプで、体内のホルモンバランスが乱れて体温調節がうまくできない人です。「火照って寝苦しい」「汗ばんだ後寒くて目覚める」というように体温変化で睡眠障害が起こります。このタイプは、「血」が不足して「火」が過剰になる状態です。「血」は精神活動を支える役割をしていますが、「血」が不足すると「火」が相対的に過剰になり、「火」と呼ばれる熱や興奮が生じます。

おすすめの養生法

- 冷たいものや辛いものを控える
「陽」が過剰な状態をさらに刺激すると、火照りや発汗などの症状が悪化します。冷たいものや辛いものは「陽」を増やす食材とされています。温かくて甘いものや酸っぱいものは「陰」を補う食材とされています。
- 涼しくして睡眠環境を整える
「陽」が過剰な状態では、暑さに敏感になります。寝室は涼しくして換気をよくしましょう。また、寝具やパジャマは吸湿性や通気性の良いものを選びましょう。

  • ツボを刺激する
    「陽」を抑えて「陰」を補うツボがあります。例えば、「涌泉(ゆうせん)」は足の裏にあるツボで、「神門(しんもん)」は手首から小指側に4本指分上がったところにあるツボです。これらのツボを押したりマッサージしたりして刺激しましょう。

おすすめの漢方薬

- 天王補心丸(てんのうほしんたん)

  • 「陰」を補う処方です。「陰」とは冷たくて静かなもの、「陽」とは暑くて動くものを表します。「陰」が不足すると「陽」が相対的に過剰になり、「火」と呼ばれる熱や興奮が生じます。この処方は「陰」を補って「火」を鎮めます。

タイプ4:消化不良で胃腸が重いタイプ

このタイプは、食べ過ぎや飲み過ぎ、暴飲暴食などで胃腸に負担がかかっている人です。胃腸に熱がたまることで、眠りが浅くなってしまいます。このタイプは、「水」が不足して「火」が過剰になる状態です。「水」は体内で水分や津液を運ぶ役割をしていますが、消化不良で「水」が不足すると「火」が上昇して胃腸に熱を発生させます。

- 刺激物や重い食事を控える
「火」が過剰な状態をさらに刺激すると、胃腸の不快感や胸焼けなどの症状が悪化します。カフェインやアルコール、ニコチンや辛いものは「火」を増やす食材とされています。清涼感や甘みのあるものや苦味のあるものは「水」を補う食材とされています。
- 就寝前3時間以内の食事を避ける
「水」が不足すると消化能力も低下します。就寝前に食事をすると胃腸に負担がかかります。就寝前3時間以内に食事をしないようにしましょう。
- ツボを刺激する
「水」を補って「火」を抑えるツボがあります。例えば、「中脘(ちゅうかん)」はおへそから4本指分上がったところにあるツボで、「足三里(あしさんり)」はひざ頭から4本指分下がったところから1本指分外側にあるツボです。これらのツボを押したりマッサージしたりして刺激しましょう。

おすすめの漢方薬

- 晶三仙(しょうさんせん)

  • 食べたものが胃に停滞しておこる胃もたれやお腹の張った感じ、便秘や下痢、腹痛などの症状を「食積(しょくせき)」といいますが、晶三仙は消化を助け、胃腸をスッキリさせる働きがあります。

- 黄連解毒湯(おうれんげどくとう)

  • 胃腸の熱だけでなく、心の熱も冷まし、興奮を鎮める処方です。胸焼けや胃痛などの胃腸の不快感とともに、イライラや焦りなどの精神的な不安定さがある人に効果的です。

漢方薬の服用をご希望される場合、その方の体質によって種類が異なることがありますので薬局でご相談ください。

ポイント
画像の説明